松村かえるの「かえるのねどこ」

旧「美風庵だより」です。

九州交響楽団第403回定期演奏会

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第403回定期演奏会 || 公益財団法人 九州交響楽団 -The Kyushu Symphony Orchestra-

九州交響楽団第403回定期演奏会
日時:2022年5月19日(木)午後7時開演
会場:福岡サンパレス ホテル&ホール
[出演] 
指揮:藤岡幸夫
ピアノ:チェ・ヒョンロク
ソプラノ:半田美和子
[曲目]
ヴォーン・ウィリアムズ:トマス・タリスの主題による幻想曲
ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲ニ長調
ヴォーン・ウィリアムズ:田園交響曲(交響曲第3番)

[ソリストのアンコール]

ラヴェル:クープランの墓 より トッカータ

以前、九響の定期演奏会プログラムを眺め、5月の定期演奏会でヴォーン・ウィリアムズの「田園交響曲」を演奏することは知っていました。14日に秋山さんが指揮するセンチュリー響で聴いて、1週間もせず、こんどは九響と藤岡さんで聴く……。

14日の時点では「そこまで好きな曲ってわけでもねえし、まぁ、いいかな?」とおもっていました。しかし14日、どこか懐かしい、優しい秋山さんとセンチュリー響の響きを聴き、せっかく実演が近場で聴けるのなら、この曲をもう一回聴いておこうと思いなおしました。

あわてて入場券を確保し、ひさしぶりに福岡サンパレスに足を運びます。

藤岡さんは、こだわりをもち、丁寧に基本を外さず歌を重視されるかたという印象があります。

以前テレビ番組で伊福部さんの「サロメ」をアルトフルートではなくバスフルートでやっていたときは、かすれた音でこそ可憐な少女サロメが表現できるのであって、バスフルートでしっかり音出しちゃったらまるでどっかのBBAじゃねえか(・へ・)イメージくるうわーとおもったりもしましたが、たまにはそういうこともあります(笑)

挑戦していただけるのは有難いことです。だって音にしてもらえたからイメージがくるうということがわかるわけで。たしかにあそこは埋もれて目立たないのですが……。

この日のお目当てはとうぜん田園交響曲でしたが、最初の「幻想曲」の時点で素晴らしく、いい演奏会に来たと確信します。

演奏された3曲とも、なんらかの部分で戦争に関連する部分があります。

「幻想曲」は、トマス・タリスの原曲の題名は(たしか)「主はなぜお怒りになるのか」(だったはず)です。

「左手のためのピアノ協奏曲」は、第一次世界大戦に従軍して右手をうしなったピアニストの依頼で書かれたものの、依頼したピアニスト本人には難しくて弾きこなせなかったという話があります。また、ラヴェル本人も従軍からの復員後、有名な「ボレロ」やこの曲ともう1曲のピアノ協奏曲くらいしか作品を残せていませんから、その意味でも貴重な1曲です。

田園交響曲 (ヴォーン・ウィリアムズ) - Wikipedia

ヴォーン・ウィリアムズの交響曲の中では親しみやすい部類に入るが、友人バターワースを含む第一次世界大戦の犠牲者への挽歌であると考えられている。

ヴォーン・ウィリアムズの「田園交響曲」については、犠牲者へのレクイエムであるとするのが、通説のようです。

ただ、3曲とも、どれも直接戦争に触れたりはしません。どこかに暗い影があるといった雰囲気です。藤岡さんはうまい具合に影も表現しつつ、メリハリをきちんとつけていきます。

「田園交響曲」を聴き比べて、どちらが上か下かは判断しかねますが、往年のボールトとロンドンフィルの名盤を思い出す茫洋とした優しさを感じた秋山さんとセンチュリー響の演奏よりも、少々こぶしが回っている感があるくらい歌がある藤岡さんと九響の演奏のほうが「こういう曲です」とわかりやすいのはたしかでした。

演奏会終了後、帰りの電車のなかで藤岡さんのツイッターを眺めてましたが、なるほど「立体的な音楽」と彼がいうのは、この場面転換のメリハリと歌心なのですね……。

コンサート アーカイブ - 関西フィルハーモニー管弦楽団

 2022 6.11 (土)
第329回 定期演奏会
東洋の神秘…必聴、松村禎三の歴史的傑作

指揮:藤岡 幸夫(関西フィル首席指揮者)
ピアノ:渡邉 康雄
[プログラム]
●松村 禎三:ピアノ協奏曲第1番
●ラフマニノフ:交響曲第3番 イ短調 作品44

youtu.be

藤岡さん、来月は渡邊暁雄さんの御子息をソリストに招いて、関西フィルで松村禎三さんの「ピアノ協奏曲第1番」をやるようです。松村さんの「第1番」でいちばんの聴きどころは、上記youtubeで14分30秒ごろからのアレグロでピアノと伴奏が突進して、クラスターで爆発・乱舞するところですが、どんな感じで料理するのでしょうか。

ここを少々引きずるくらいのテンポでやらないと、松村禎三さんらしい味が出ない場面でもあるので、大阪に足を運べるかたは、ぜひ、どう料理するか聴いてみてほしいとおもいます。

(今日の調子から推測するに)おそらく、似合うとおもいます。

2022.5.20追記

帰宅後、洗濯機まわしたりいろいろしながら忘れぬうちに感想を書き掲載したのが2時でした。起床してから読み返し、てにをはのおかしいところを修正しています。

コロナ騒動以降、「ブラボーの発声は控えるよう」にとどこのコンサートホールに行っても告知されますが、何人かやっていたようです。いや、わかります。それに文句は言いません。わたしはなるべく腕を高く上げて拍手するようにしていますが、自席で立ち上がって拍手されているかたもおられました。

昨日の感想に追記しておきたいのは、「幻想曲」「田園交響曲」を聴きながら、ふとリヒャルト・シュトラウスの「メタモルフォーゼン」を思い出す瞬間があったこと。

「メタモルフォーゼン」の草稿には「ミュンヘンを失いたるなげき」とあるそうで、ナチスドイツ敗北直前の、破壊された街・崩壊した祖国への悲しみを表現しています。

以前にも書いたとおり、私は他人に薦められて聴くようになった程度で、あまりヴォーン・ウィリアムズのよい聴き手ではありません。深刻ぶったところがなく、上品で高貴な世界(紅茶と英国紳士の国ですしね……)だとおもっています(6番というえっぐい曲ありますけど)が、どうやら背後は奥深いようです。これに気づいたことが、昨日の演奏会の収穫でした。