松村かえるの「かえるのねどこ」

旧「美風庵だより」です。

2023年2月27日の日録

酒かすの話。

いまさら当たり前だろとおもわれるかもしれませんが、酒と言うのはほんらいぜいたく品です。米ぬかだけでなく、炊飯用とはくらべものにならないほど周囲をけずっていきますので米粉がでます。そして、絞ったら酒かすがでます。

すくなくとも私が学生のころには、米ぬかは漬物屋さんやキノコ工場、肥料工場が引き取るという話でした。また、米粉はせんべい工場や家畜飼料の工場などが引き取りますが、酒かすはほとんどがゴミになります(食品に再加工する量なんてしれたものです)。

むかしはもみ殻を混ぜて蒸留しアルコールをとり、酒かすともみ殻が混ざったくずは肥料にしていたそうですが、そうやってとったアルコール(粕取り焼酎)には独特の匂いがあり売れ行きがよくなく、私が学生のころには「戦後どのくらいまでやってたかなぁ~」と経験者から話に聞くだけになっていました。この粕取り焼酎は、アルコール添加にもつかわれていました。純米酒活動家として活動されていたかたのうち、国税技官OBなんかはとうぜんこの実態を知っています。しかし、自らが広めようとするイメージ拡散の邪魔になるため、触れることはありません。私は2〜3年でこういう姿勢がバカバカしくなり活動家やそのお仲間から離れます。

酒かすは肥料になると言っても、つかえる量に限度があります。さきに書いたように、アルコール蒸留したあとのくずならともかく、生のままだとアルコール度数が8%以上あるので土壌の微生物に影響をあたえます。アルコール分が、生をそのまま田んぼに投入する障害になるわけです。

私が子供のころ、田んぼをプラウで深耕(深さ30㎝以上)し、そこに生の酒かすを200~300kg投入してふたたびロータリーですき込み、均す作業に立ち会ったことがあります。よい肥料となることはわかっていても、数年に一回、深く埋めるなりして、アルコールの影響を最小限にする工夫をしないと、使いにくいものでした(いまは技術改良がすすんでいるかもしれません。念のため)。

肥料がダメなら家畜の餌はどうでしょうか。近所に酪農家(乳牛)や肥育農家(肉牛)があり、ビールかすと酒かすは酪農家や肥育農家にとってマストアイテムでした。夏場、牛は人間よりはやくへばります。夏バテして餌を食わなければ乳量も減りますし、体重も増えません。そういうときに乾草や濃厚飼料にビールかすや酒かすを混ぜると、匂いとアルコールにつられて食がすすみます。人間だと妊娠中のアルコールはよくないとされていますが、牛の給餌でとくにそういう制限はなかった記憶があります。基本的には、夏バテや産前産後のへばり、病後の食欲ドーピング剤としてつかわれていました。

この家畜の餌化で問題となるのは、牛の肝臓は人間ほどアルコール代謝能力がないことでした。天寿を考慮せず屠畜場(最近は食肉加工センターとか言いますね)にいずれドナドナする前提で、あの図体で酒かす一日4kgが上限だったはずです。

すでに書いたとおり、純米酒活動家が「消費者は本物を求めている!本物をつくれば復活する!」とあれほど宣伝していたのに、日本酒消費は私が学生のころから30年以上右肩下がりをつづけ、とうとう数年前には特定名称酒(本醸造・吟醸・純米)の売り上げすら減りはじめました。

当時、「高精白米をつかったぜいたくな酒こそが「本物」である」と活動家やそれに同調した漫画家・文化人や酒販店が宣伝につとめ、醸造家がそれに見合う商品を供給し、醸造家と酒販店が構成する業界の任意団体から活動家自身も「顧問」の肩書で報酬をもらう、まさに WIN = WIN = WIN の関係が構築されていました。

その流行に乗ろうとしたものの、活動家への付け届けがしょぼかったのかこき下ろされた醸造場もありましたし、技術の問題かカネが行き詰ったか、廃業・転業したところもありました。活動家が主張する「伝統(と彼らが思わせたいもの)」の影響は、まことに甚大だったのです(逆に、活動家のほうが人気をみてすり寄ったものの、特別扱いしてもらえず避けていた醸造場もあります)

当時「この米あまりの時代に、三増やアル添でいつまで米代ケチってるんだ」という活動家の批判が、いろんな媒体に掲載されていました。私もそういうものかとおもいもしたのですが、よくよくかんがえると、鵜呑みにはできません。

活動家は、それこそ足踏み精米か水車精米が主流だった時代の精神で1930年に登場した縦型精米機がつくる高精白米で酒をつくろうと言っているわけで、エコではないどころか、ごみ事情についてはむかしよりはっきり悪化するわけです。

子供のころ、酒かすを肥料や家畜の餌にしていた話を書きましたが「ほんとうは子供には食わせちゃいけないんだけど」と前置きしつつ、「うちのは粒がのこってるから美味い」と少し取り分けて、なんどか味見させてくれたことがあります。当時「食って美味い米は酒も旨くなる」という話はずいぶん聞かされたものです。

この旨味はでんぷんに由来します。活動家が忌み嫌った「液化仕込み」は酵素剤ででんぷんをオリゴ糖に完全分解しますから、この旨味はありません。ただ、これは逆から言えば、伝統製法は食えるものを棄てていることでもあります。

「液化仕込みは低コストを追求した伝統を破壊する製法。酒かすも出ない邪道」という批判も活動家や彼とスクラムを組む酒販店・醸造家がいまだに大合唱していますが「うちはきつく絞らないんで、酒かすも美味いだろ?」と言いつつ、伝統製法の場合、ごみ処分代がそれだけ酒の価格に乗っているわけです。ものは言いようとはよく言ったもの。

SDGsとかいうわけわからんものを完全首肯するつもりはありませんが、時流としてどうなのかな、という気はします。まぁ、20年以上経ちますからまさかまったく当時から状況が改善していないということは、ないとおもいますが……。