美風庵だより

幻の花 散りぬ一輪 冬日の中

「半日の放浪」

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あまり派手に画面をキャプすると引用規制にひっかかるので1ページで止めますが、高井有一さんの「北の河」の冒頭です。

赤貧がこれに出会ったのは学生の頃でした。世のなかにはほんとうに文章の上手いひとが居るものだと感心して、すっかり高井さんのとりこになった記憶があります。ここ最近、文庫ですら絶版だったのに電子版がときおり出版されるようになり、持ち運んで何回も素晴らしい文章を味わえるのは、ほんとうによい時代になったとしかいいようがありません。

ただ、やはりというか、高井有一さんの文章のよさは、旧仮名づかいのゆったりとした呼吸のよさにあるので、新仮名だと、それがすっかりと削げ落ち、ただの読みやすい文章になってしまっているのがもったいない。出版社は旧仮名の持つ表現力をもっといろんな世代に売り込んでほしいのですが、やはり、若い世代だと旧仮名というだけでアレルギーでちゃうんでしょうね……。

表題作の「半日の放浪」は、筑摩書房の「夜の蟻」の最初の収録作品で、手元にある文庫本が1993年初版とあり、それ以前に発表されたことはたしかです。おそらくは、平成になるかならないかくらいの時代でしょう。

立原正秋(新潮文庫)

立原正秋(新潮文庫)

 

高井有一さんとの出会いは、じつはこの「立原正秋」でした。

まだ学生のころ、これを読んで刺激され、鎌倉の梶原山の立原邸まで押しかけました。
「墓石の周囲の砂が減っていく」話をご家族からきかされ、じつは自分も墓地にお参りして記念に砂を持ち帰ってきたことを、さすがに言い出せませんでした。懐かしい時代です。