松村かえるの「かえるのねどこ」

旧「美風庵だより」です。

2023年3月2日の日録

燗徳利を買う。

酒断ちしたとき、徳利と盃はすべて不燃ごみに出しました。もう何年も前のことです。

ひさしぶりに再開してみると、まともに燗酒を呑む器がありません。湯飲みで呑んでいましたが、どういえばいいのでしょうか。品がないし、呑みすぎます。

というわけで、あれほど貧窮だ困窮だ死ぬ死ぬと騒いでおきながら、ひさしぶりに燗徳利を買ってしまいました。

カタログでは容量270mlとあるため、どのあたりまで注げば1合になるかわからず、じっさいに「菊正宗 本醸造」を180ml(1合)はかって、本体に注ぎます。

電子レンジ500wで90秒あたため、かまぼこをアテに燗酒をいただきます。

駅前のスーパーで1本165円、なかなかお値段のする宇部蒲鉾さんの「蒲さし」です。

ここ県南では、なんといってもSという蒲鉾屋が圧倒的権威をもち、じっさいに味もよいのですが、お値段がマヂで強気です。いくら美味くても、あれじゃ贈答品にしか使えません。それに比べて、うべかまさんは商品のランクも幅広く、ここ甘木でも「ちょっと贅沢」クラスが売ってますし、酒のアテにつかえます。

なかなか燗のつかり具合がよかったので、冷蔵庫の奥底で寝ていた山口酒造場の「庭のうぐいす おうから」を引っ張り出します。地元(というか隣町)の醸造場で、かつ、県下で最高に美味い酒蔵のひとつだとおもいます(まぁ、単価が菊○宗本醸造の倍しますしね……)。私は基本的に燗酒派(しかも可能なかぎり熱々派)なので、このアル添辛口の「おうから」は、醸造場の直売所で必ず買う一本です。たぶん、キンキン冷酒派・常温派は、ふつうに純米や吟醸のほうがいいでしょうね。

菊正宗本醸造と「おうから」を比べると、あきらかに濃度(酸味)がちがいます。酸味がそのまま米の味として出ているのが「おうから」で、すっきり淡泊なのが、菊正宗本醸造。どちらが上か下かというより、あわせるアテをかんがえながら呑む楽しみがあります。濃いほうがやはり、しょうゆ文化に合うというか……。

 

「五百万石」の話。

2000年ごろ、地域おこし町おこしの話題づくりに「純米酒ブーム」にあやかろうという話が持ち上がったことがありました。地域で栽培したお米でつくらないと意味がないため、酒米の栽培経験があるかたに指導をあおぐこととなり、そのかたがつくったことがある「五百万石(1957年品種登録)」という品種をつくることになりました。現在でも「山田錦(1936年品種登録)」と並び、代表的な酒米とされます。

私はいまさら醸造場見学に行って醸造工程をみてもしょうがないので行かなかったのですが、栽培農家のかたから自分の作った米がどう扱われていたか感想をうかがうと「なんか馬鹿にされた気分がした」と言い出します。話を聞くと、栽培農家のかたは米の栽培はプロであっても、酒づくりの工程なんて知りませんから、精米機でガンガン削られて真ん丸になった米をみて、複雑な心境を持つわけです。

精白度が70なら3割けずって棄てると説明で理解しているつもりでも、実物をみて感じるものは、いろいろあります。そして、技術指導のかたが「我々としても試行錯誤の段階」と言ったのも、ぶったまげたそうです。

1985年(昭和60年)頃から、酒米に山田錦(Y)を、酵母にきょうかい9号(K)を使用し、精米歩合を35%まで高めれば、鑑評会で良い成績が獲れるとする「YK35」という公式のような言葉が酒蔵関係者の間で使われるようになった。このため、鑑評会では2000年(平成12年)度から山田錦の使用割合別にI部とII部を設け別々に品評した。

山田錦 - Wikipedia

多少でも周辺部をうろついていればわかりますが、純米酒活動家が「伝統」と主張したものは、戦中戦後に品種登録された酒米、1930年に発明された縦型精米機、戦後頒布されるようになった協会9号酵母による、コンテスト上位入賞向けの製法を一般化させたものです。伝統どころかアバンギャルドそのもの。指導できるひとも少ない、される側もわからない、そしてとりあえず米はしっかりけずれ。栽培農家からみれば「なんじゃあれ」なのも、しかたがない時代でした。

その栽培農家さんの言うとおりけずらずにつくれないのか」というのは、ほんとうに「伝統」を名乗るなら、これこそ永遠のテーマのはずです。

しかし、これを本気で宣伝した純米酒活動家をききません。いままで自分たちが「これぞ本物!」と騒いできたものが根底からくつがえるため、とても言えないでしょう。伝統だと言いふらしていたものが、じつはコンテスト入賞のための製法を転用した前衛の押し付けなんて、いまさら口がさけても言えません。

あえて磨かないという選択。日本初の玄米酒が誕生

長寿金亀赤 玄米 生原酒 720ml 【金亀】岡村本家オンラインショップ

いずれどこかで誰か挑戦しないものかとおもっていたら、あれこれ各地で試行錯誤されているようです。

すばらしい時代になりました。

到着したらまた感想を書こうとおもいます。