演奏会のあらまし
アルモニア管弦楽団 第21回定期演奏会
日時:2022年6月5日(日)14時開演(13時15分開場)
会場:久留米シティプラザ「ザ・グランドホール」
[出演]
指揮:藤岡幸夫
ヴァイオリン:漆原朝子
[曲目]
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編曲版)
ホールの聴こえ方を試す
5月28日、久留米市民オーケストラの演奏会に行きました。久留米シティプラザのグランドホールには、講演会の会場としては何度か足をはこんだことがありましたが、演奏会の会場として客席で聴くのは、この日が初めてでした。
はじめてのホールでは、なるべく2階あたりの正面席(舞台が見下ろせる位置)をえらんでおけば、間違いありません。このグランドホールは4階席まであり、28日は3階席で聴きました。
聴く場所選びとしてはこれで間違ってはいないはずなのですが、どうしても最上階、あんなに天井間際の席でどんな聴こえ方をするのかが、気になってしかたがありませんでした。ホール音響愛好家としての好奇心がうずうずしてしまいます。
次回来るときは、最上階を試したいと考えていました。
6月5日、佐賀のアルモニア管弦楽団の演奏会が久留米で行われたので、足をはこびました。4階席に到着後舞台の見え方などを確認し、まず前半は4階席正面後方に陣取り、後半はバルコニー席に移動することにしました。全席自由席の演奏会は、リスニングポイントのチェックに好都合です。
前半着座した位置からの舞台の見え方はこんな感じです。黒く塗られた柵が高くなっている場所は通路で、こけた客が転落するのを防止するため、あそこだけ高くしているようです。
どのくらい天井にへばりついているか、この画像で理解していただけるとおもいます。
舞台がよく見えるということは、直接音と床から反射する音がしっかり飛んでくるということで、ほぼ天井まぎわながら、意外と悪くありません。
ヤマハ | 世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール | Web音遊人(みゅーじん)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/76/9/76_495/_pdf
音響設計はヤマハさんが手がけられました。メディア・学会誌などで発表しているところをみると、自社の成功事例として認識されているようです。以前にもこういうのは拝見していましたので、そこまで書くなら敢えて条件がよくないところで聴いてやろうじゃないかと考えたわけです。私は人間性にだいぶ問題があります。
4階正面後方で、ブラームスのヴァイオリン協奏曲を聴いたかぎりでは、天井かぶりとは思えぬほどクリアな音がします。過度の残響感で耳が痛くなることもありませんし、なにやらよくわからない音圧を感じることもありません。逆に、3階席よりもくっきりしています。残響がすくないのでしょう。
休憩時間中に、最上階のバルコニー席に移動しました。演奏者やほかのお客さんが写りこまないよう配慮してiPhoneを引き気味に構えたというのもありますが、みてのとおり舞台はほとんどみえません。
これじゃあ、ほかに誰も座っていないはずです(笑)
「展覧会の絵」の冒頭、ラッパが足元から聴こえます。舞台はみえていないのに、音は舞台のあるべき位置から、そのまま突き抜けてくるのです。下手なホールだと、音がどこから飛んできたかわかりません。言い換えると、反射音の処理ができていません。
ここはそのようなことはなく、最上階のバルコニー席で舞台の楽器配置が視覚なしでわかります。なかなかないことで、驚きました。ただし、やはり天井が近いためか打楽器の音が強く出すぎるところがあり、また、合唱がどのくらい濁るかも念のためいちどは試しておく必要があります。
演劇なら舞台がみえないとお話になりませんが、演奏会ならこのぶんだとほぼ問題ありません。ただ、ちょうど1階フロア中央の真上、2階席・3階席より前方ということもあって、雑音をひろいます。キャラメルかなにかの包み紙を開ける音、持ち込んだ傘を動かす音、カバンを開けるときの音、どの階のどのブロック辺りからしたかよくわかります。
最上階のバルコニー席なんて、安い券にしか割り当てないでしょうし、ほかのお客さんが出す雑音も生音と割り切ることができるなら、選択肢としてもよいのではないかとおもいます。
肝心の演奏の話
以前から佐賀にアルモニア管弦楽団という団体があるのは聞いていましたが、彼らの根城が佐賀市文化会館ということもあって、遠慮していました。
藤岡さんは5月19日に九響定期で聴きましたが、物語を尊重されるかたとの印象があります。この曲はこうだ、というイメージがはっきりしているため、聴いていてわかりやすいのはたしかです。
ブラームスのヴァイオリン協奏曲は、じつに端正な響きです。少しこぢんまりしたかな?という印象もありましたが、メロディーを過剰に歌うこともなく、さらりとしすぎていることもありません。このオーケストラの演奏家のみなさんは、九州各地で自分の教室をもちお弟子さんをとっているプロでもあるわけで、指揮者の反応にきちんとついていきます。
「展覧会の絵」は、さすがにオーマンディ指揮フィラデルフィア管の名盤などと比べては可哀想ですが、過去に大フィルや九響で聴いた実演なら、いい勝負だった気がします。むしろそっくり返るところが少なく、最後まで安心して聴けました。
「展覧会の絵」の原曲、むかし渡邊康雄さんがピアノで演奏されているのを聴いて、渋いのにびっくりした記憶があります。ラヴェルが編曲したものとぜんぜん別物に感じました。事前の「プレトーク」で、ムソルグスキーが親交のあった画家の死をきっかけに書いた作品であることを力説しているところをみると、今回の演奏は、可能なかぎりあの雰囲気に似せようとしたもののようです。ただ、そこを強調するとラヴェルの色彩感は邪魔かな?ストコフスキーとかもっとロシア臭い編曲もあるんじゃ……とおもえてしまいます。