松村かえるの「かえるのねどこ」

旧「美風庵だより」です。

カンタータ・プロジェクト2023 ミサ曲ロ短調 オリジナル小編成古楽器によるバッハ

演奏会情報 - カンタータプロジェクト

カンタータ・プロジェクト2023 ミサ曲ロ短調 オリジナル小編成古楽器によるバッハ

日時:2023年7月30日(日)15時開演(開場14:15)

会場:アクロス福岡シンフォニーホール

[出演] 

ソプラノⅠ:昆野智佳子
ソプラノⅡ:中川詩歩
アルト:佐々木ひろ子
テノール:田尻健
バス:小藤洋平

合唱:カンタータプロジェクト声楽アンサンブル
ソプラノⅠ:昆野智佳子※、西谷奈菜※※、長本多恵、米村香
ソプラノⅡ:中川詩歩※、川上まや、高橋覚子、中山美智子
アルト:佐々木ひろ子※、岡村文重、河角あや、黒木和、中村千佳
テノール:田尻健※、加藤隆明、栗林孝次、田中雅美
バス:小藤洋平※、岡村聡、村山暁、和田実哲
※=パートリーダー、※※=ゲストメンバー

古楽器アンサンブル:コンセール・エクラタン福岡
バロック・フルート:前田りり子、松本優哉
バロック・オーボエ/ダモーレ:荒井豪、森綾香、本岡華菜
バロック・ファゴット:長谷川大郎、埜口浩之
バロック・トランペット:斎藤秀範、渡邊裕介、古賀敦子
バロック・ホルン:野瀬愛加
ティンパニ:森洋太
第1バロック・ヴァイオリン:原田陽、城田恵
第2バロック・ヴァイオリン:松岡祐美、倉田輝美
バロック・ヴィオラ:松隈聡子
バロック・チェロ:山本徹
バロック・コントラバス:西誠治
オルガン:福田のぞみ
チェンバロ:根本卓也
オルガン提供・調律:石井賢
チェンバロ提供・調律:中村壮一
コンサートマスター:原田陽

指揮:小沼和夫

[曲目]

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ ミサ曲ロ短調 

バッハの「ロ短調ミサ」の実演に触れる機会はなかなかありません。

県外まで出ればあちこちにあるのかもしれませんが、こういうふだん聴かない曲を電車賃で聴きに行けるのは、それだけでありがたいことです。というわけで、27日に「サロメ」を聴いたアクロス福岡シンフォニーホールを、ふたたび訪問しました。

www.youtube.com【AI高画質版】J.S.バッハ:ミサ曲 ロ短調 BWV232 (リヒター, 1969年)【全曲・日本語字幕】(1080p/60fps) - YouTube

とはいえ、私は上掲のyoutubeのようなリヒターなどモダン楽器の「ロ短調ミサ」を当たり前に聴いてそういうものだと慣れた世代ですから、今回の演奏団体が標ぼうする「古楽器&少人数による演奏」というのは意外と抵抗があったりします。

 

マタイ受難曲 (ちくま学芸文庫)

バッハ=魂のエヴァンゲリスト (講談社学術文庫)

より正確にいえば、古楽器演奏というのが流行しはじめたころになんどか聴いてどうも違う気がしていたおり、上記の礒山雅の本をたまたま読んで、さらに足がとおのいたままになっていました。

曲へのアプローチがどうあるべきかは時代と演奏家と客が決めるのであって、おれの認めるスタイル以外はぜんぶ邪道という感じのあの論述はいけません。情報として正しいかどうかと(知識のすごさには圧倒されます)、鑑賞・演奏の自由はべつのはず。偏屈者を権威と持ち上げた結果、バッハから遠ざかったひともだいぶ居るのじゃなかろうか?とすらおもっています。

というわけで、古楽器演奏というものに偏見をもったまま今日に至っていました。

 

そして2つめの問題は、会場がアクロスであるということ。

アクロスは「満席時残響2秒の優秀なコンサートホール」というのがむかしからの売り文句ですが、堂々と公式に言うひとはいませんがクセがあるホールでもあります。

大阪・福島のザ・シンフォニーホールや、東京・渋谷のオーチャードホール同様、直方体を基本とするいわゆるシューボックス型ホールと呼ばれるもので、かたちとしては一般的なものです。ところが、ザ・シンフォニーホールやオーチャードとちがい、バルコニー席や隅のほうの座席では、左右の聴こえかたにズレがあります(ちなみに同様の違和感を感じるホールはほかに「■都コンサートホール」などいくつか存在します)。

【AI高画質版】J.S.バッハ:ミサ曲 ロ短調 BWV232 (リヒター, 1969年)【全曲・日本語字幕】(1080p/60fps) - YouTube

30日は、2階席正面あたりに陣取っていました。いよいよ終盤もみえてきた「ホザンナ」のあたりで、舞台以外のところからやまびこが聞こえます。まさか合唱団の別動隊が居るわけじゃないよな?と、ソプラノ集団の対角線上、正面向かって右手をおもわず振り返りますが、お客さんが2,3名みえただけで、そこに歌手は居るはずがありません。

まだ学生のころはじめてここの舞台に立ち、妙なところから音が返ってくるのでびっくりした記憶があります。或る演奏団体がマーラーの「復活」を上演したさい、残響(定在波?)からくる耳鳴りを感じ、後日の関係者打ち上げに参加して客席で耳が痛くなったむねを伝えたところ、当時或る国立大学の建築科に在籍していたかたから、紙に絵をかきながらホールの音響特性について説明をうけたことがあります。

要は地下鉄の真上にホールがあり遮音のためホール全体を吊るし、浮かせる構造になっており、それ自身が音響設計上の制約になっているのではないか?というものでした。

つまり、もうそういう場所だと諦めるしかないというわけです。

https://www.acros.or.jp/r_facilities/symphony/construction/images/5.png

耐震工事の軌跡 - 福岡シンフォニーホール - 施設ガイド - アクロス福岡

2022年9月に終了した耐震工事についての特集ページでも、独自の「浮き構造」について触れられています。

当時としては先進的な試みだったのかもしれませんし、変わったことをしないと予算がつかないという点はあったかもしれません。それにしても、もう少し堅実な設計というわけにはいかなかったのでしょうか?

 

当日、全自由席でしたのでホールに入場して2階席のどこに座るか物色していたところ、十数年ぶりでしょうか、どこかで見たかたがこちらをジロジロながめておられました。近づいてきて「美風さん?」とわたしを別名で呼びます。

中学から大学にかけて、小説の同人誌に参加しており、そのときに名乗っていたのが「美風」というペンネームです。インターネットが流行するようになってからはハンドルネームとしてもつかっていました。この日記が「美風庵だより」なのも、このハンドルネームに起因します。

ほんらいハンドルネームなのでリアルな関係者は知る由もなかったのですが、私の別名だと知ったかたの一部が、この名前で呼ぶようになります。現実世界で、ペンネームと本名が同時に出回っているようなものです(森鴎外と森林太郎太宰治と津島修治)。

紙に絵を描きながら音響について講義をしてくれたかたと、ほんとうに偶然の再会でした。

 

入場時に配布されたパンフレットをみると、当日舞台にあがった演奏者には、同姓同名でなければむかし会話したことがあるひとも居るようです。もう十数年没交渉でいまさら挨拶に行く関係でもありませんから、とくになにもせず黙って帰ることにします。

 

肝心の演奏はというと、じつに明るくそぎ落とされた雰囲気を感じます。あたたかみもあります。

合唱団はソリスト含めて21人。オーケストラも小編成ですので、音の洪水といったことにはなりません。先に書いたとおり、一部でアクロスらしいミステリーが発生したものの、もともと1,800人収容の容積のでかいホールで聴く小編成ですから、音はくっきりしています。

さきにyoutubeを引用したリヒターの演奏のような壮麗さや精神性はありませんが、重苦しさもないため、休憩含め2時間半のわりに短くすら感じます。

「バッハとはこんなに明るいものだったのか」というのが率直な印象でした。