dictionary.sanseido-publ.co.jp大辞林第4版 - 美風庵だより
9月29日、休業中の個人事務所の所用で小倉に出ました。
すでに物書堂さんのアプリ版「大辞林4.0」を購入して使用しており、あらためて紙の辞書のほうは更新しなくともよいかと考えていました。しかし、用事が済んだあと、ブックセンタークエスト小倉本店に立ち寄って実物を眺めていて、考えがかわりました。思い切って衝動買いです。
大辞林の初版は1988年で、赤貧もまだ生きていた祖父におかねを出してもらって購入しました。当時はインターネットなんてありませんし、なにを調べるにも紙の辞書全盛だった時代です。百科事典などというかさばるものは公立図書館に見に行くものであって、手軽になにかを調べるために家庭に常備できるものは、広辞苑か大辞林が限界だった気がします。
記憶は多少前後するかもしれませんが、当時は一冊ものの中辞典がいろいろありました。広辞林のほうが広辞苑よりも国語項目重視だった気がします。ただ、載っていない項目も多く、説明が簡潔すぎてよくわからないものも多かった記憶があります。考えてみれば判型が一回り小さく、活字量に制約があったためだとわかるのですが、まず持ちやすい広辞林で調べ、そのあとに広辞苑、それでダメなら平凡社の百科事典という流れでした。
昭和56年初版だったのが小学館国語大辞典で、親本である日本国語大辞典のコンサイス版であり、25万項目をうたっていたのは、これだけだったと思います。これはのちに小学館/マイクロソフト「ブックシェルフベーシック」として、CD-ROMがマイクロソフトオフィスのおまけになったときの種本でもあり、いまから約20年前のパソコンかじりはじめのころ、最も利用した辞書でした。
現在、日本国語大辞典第2版のコンサイス版の位置にあるのが「精選版 日本国語大辞典」です。こちらは一気に3分冊となって語釈も用例も豊富になりました。ひとつひとつの項目が詳しく、調べていてたのしくなる辞書です。さすがに3分冊ぜんぶそろえると45,000円を超える値段は赤貧にも手が出ませんでしたが、のちに物書堂さんからアプリ版が登場したので、喜んで購入しました。当時、7,800円だった気がします。
たぶんこれが、いま真っ先に引く辞書です。
大辞林は初版のあと、1995年に第2版が登場します。初版が100万部売れて、広辞苑が射程に見えてきたこともあってか、いまでもこれが最も完成度的には高かった気がします。三省堂も力がはいっていました。赤貧の手元にあったものは、前の仕事場に置きっぱなしになっているはずです。もう棄てられているかもしれません。
第3版登場のときに、ユーザ登録すればインターネット版も使用できる特典がつきました。2006年のことです。このころになると、インターネットを利用した検索サイトや電子辞書が台頭し、紙の辞書は完全に下火になっていきます。wikipediaとgoogle先生でなんでも判る時代になり、紙の辞書をわざわざ引っ張り出して調べるのを「手間」だと感じ始めた時代です。
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https://www.shinbunka.co.jp/news2019/06/190621-02.htm
「大辞林」を13年ぶりに改訂し9月5日、第四版を全国一斉発売する(一部の地域を除く)。同書は1988年11月に発売され、100万部を発行。95年11月に第二版を、2006年10月に第3版を発売、累計発行部数は135万部となっている。
第四版の初版は3万部、まずは5万部を目標に掲げた。本体9000円。
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初版は100万部売り上げ、現在までの総売上が135万部ということは、第2版と第3版は、あわせても初版の3分の1しか売れていないことになります。初版が流通していたのは1988年の登場から1995年の改訂までですから、7年です。年に平均14万部は出ていた勘定になります。
それに対して第2版と第3版の流通期間は合計で24年、35万部なので年平均1万部ちょいです。すでに誰もがiPhoneやスマホのアプリに移行しており、紙の辞書を買うのは骨董趣味に近い時代といえます。
辞書コンテンツをデータとして提供するのが出版社の仕事となった時代に、敢えて第4版を問うというのは、冒険だったでしょう。目標は5万部とのことで、初版の見る影もありません。
赤貧が日記で2回取り上げたのですが、その記事がgoogle先生で検索するとかなり上位にヒットします。世間の注目度もあまり高くない……。
そういうなかで今回の大辞林も、あいかわらず攻めています。
あきらかに最近の流行を念頭において、語釈を見直しています。
もともとの売りが、出版時点で、いまを飛び交う言葉の鏡であることだけあって、新語も積極的に採録しています。
赤貧が驚いたのは、「orz」が掲載されていたことです……orz
第3版では、ORBISのつぎはORTですが、第4版ではORTがなくなり、代わりに「orz」が掲載されています。アスキーアートが市民権を得たということか、絵文字が辞典に載るご時世になったというのも昭和ではかんがえられなかった事態でしょう。
ご丁寧に失意体前屈であることを一文字ずつ説明されているのも、すごいことです。
第3版と第2版は、装丁デザインは同じかたが担当されているせいか、一気にかわったという印象はありません。大辞林の初版から第2版にかけてはずいぶんと変更があった記憶があるのですが、今回はキープコンセプトというところでしょうか。
第3版が2,976ページで、第4版は3,200ページとなり、224ページ増えているにも関わらず、厚みは減っています。つまり、紙が薄くなったということです。やはりこれの影響はあって、紙が少々はぐりにくくなりました。使っているうちに紙のはぐれもよくなるのかもしれませんが……。
ただ、この点はなるべく薄く軽くをめざした13年ぶりの技術革新でもあるわけで、文句をいうのも可哀想ではあるのですが……。ちなみに辞書用紙メーカーは第3版は三島製紙で、第4版はその後身企業日本製紙パピリアとあります。
第3版の特典は、インターネット経由で使える電子辞書の利用権でしたが、今回の第4版は、iPhoneもしくはアンドロイドのアプリです。すでに物書堂のアプリを持っているためどのような使い心地か試していませんが、いずれ時間があるときにでも試してみたいと思います。
あと、(赤貧のような辞書マニアをのぞいて)このテの辞書を紙で欲しがる世代のほとんどは、インターネットの利用に不慣れな年代層のはずですから、分冊机上版の早めの展開も必要だと思います。むかしは紙の辞書が本家で、電子辞書や辞書アプリが派生形だったはずなんですが、もう、あきらかに逆転してますからね……。インターネットやスマホが使えない層に対するアプローチの手段として、紙の辞書が残っている状況ですから……。