松村かえるの「かえるのねどこ」

旧「美風庵だより」です。

孔官堂「特撰仙年香」

孔官堂のお線香 特撰仙年香 バラ詰 #724

孔官堂のお線香 特撰仙年香 バラ詰 #724

 

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孔官堂というと、スーパーで売っている「仙年香」「松竹梅」というイメージがあります。20年ほど前、赤貧が線香や香木にめざめたころもそうで、専門店向け製品の実物なんて見たこともありませんでした。
考えてみれば「蘭月」も、福岡ではたまに見かける程度でした。仙年香と松竹梅の会社、というのが赤貧を含めほとんどの一般人のイメージだったかとおもいます。
香木や生薬の量を強化した「特撰」シリーズが存在するのは知っていましたが、試す機会がなく、ずっと放置していました。
一度買って試して、あまりよくなければ実家か親類の家に持ち込むことになるのですが、あまりしょっちゅう持ち込むと、不審がられます。試すにしてもある程度は、商品説明と(火をつけるまえの)上匂いで見当をつけなければなりません。
やっと特撰仙年香を試す機会がありました。
80g入りで定価税抜1,500円ですから、gあたり約18円です。
日本香堂さんの「伽羅永寿」(170g入りで3,300円)とほぼ同価格帯の製品ということになります。
日本香堂さんの「伽羅永寿」は、原材料名 タブ粉、炭粉、伽羅、香料とあるので、グレードは別として、少なくとも日本香堂的には「伽羅」と認識している沈香が配合されています。かたや、特撰仙年香は、タブ粉、生薬、炭粉、沈香、香料ですので、はたしてどのくらい違いがあるものか、なかなか興味があります。
このランクの線香に、超高級な沈香や伽羅を求めるのもどうかという気がしますが、どちらも沈香にしては薄めの甘い香りがします。沈香の配合量はおそらくたいしたことがないのではないかとおもえます。それを補強するのが甘い合成香料の香りで、インターネットでは、石けんの匂いと表現するひともいますが、香粧品の香りにも近いものです。ただ、よく聞くとどちらもしっかりと香木の焦げる匂いがしますので、けっして合成香料だけに頼っているわけではないのですが……。
特撰仙年香のほうが、私たちの知っている仙年香の香りとともに、沈香の香りが明確に現れます。伽羅永寿はカドのない優しい、柔らかい香りのなかにほんのり沈香が香る線香で、特撰仙年香のほうがその意味では、個性はつよい存在です。とはいえ、梅栄堂の特撰好文木などと比較すれば、五十歩百歩なわけですが……。
特撰仙年香を聞いて感じるのは、もともとの仙年香の香りを大事にする姿勢です。仙年香の香りに、甘く濃い沈香(調?)の香りをまとわせることで、ぐっと高級な香りに近づけているのですが、あくまでも、基本はくずしていません。甘く濃い沈香(調?)の香のため、丁字の辛味が埋もれがちですが、あまり辛さを強調しないように調合されているのかもしれません。
香粧品の香りに近い、どこまでもトゲのない甘くまろやかな香りを求めるのであれば、伽羅永寿のほうに軍配があがるのは間違いありません。ただしそのかわり、香りが漠然としています。伽羅永寿よりも高級な「沈香司薫」となると、沈香の配合量が多いためか、もっとはっきりと香りの姿がわかりやすく、意識して聞かなくても沈香の匂いを感じ取ることができるのと比較して、伽羅永寿や沈香永寿クラスだと、沈香(調?)の匂いが全面に出過ぎるのです……。
同じ沈香(調?)の合成香料の香りが混じっていても、沈香の香りがわかりやすいのは、特撰仙年香のほうです。生薬や香料との対比により、違いがほんのりとですが、際立ちます。
同価格帯の他社の製品と比較してみるとわかりやすい部分もあり、もともとの仙年香に近い香りもある、たしかにちょっと高級な製品であることは間違いありません。部屋焚きとして使用するには役不足ですが、仏壇線香としては充分すぎるレベルではあると感じました。