松村かえるの「かえるのねどこ」

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広島交響楽団 第428回定期演奏会

第428回定期演奏会 | 広島交響楽団

広島交響楽団 第428回定期演奏会
日時:2023年2月23日(木・祝)15:00開演(14:00開場)
会場:広島文化学園HBGホール
[出演] 
指揮:秋山和慶
管弦楽:広島交響楽団
ピアノ:三浦謙司
[曲目]
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番ニ短調作品30
ラフマニノフ:交響曲第3番イ短調作品44
[ソリストのアンコール]
ジャン=フィリップ・ラモー:「Les Tendres Plaintes(やさしい嘆き)」

まず、広島交響楽団の演奏会は、2022年5月の第417回定期演奏会以来です。

今回のソリスト三浦謙司さんの演奏は、2022年7月の大フィル神戸演奏会以来。

秋山さんの指揮は、2022年12月の中部フィル定期以来です。

前回の広響定期は、トゥビンというなかなか実演で聴けない作曲家の作品が取り上げられました。ふだん聴けない曲が聴ける場に立ち会うのは、じつに素晴らしい体験です。三浦さんで前回聴いたのはシューマンのピアノ協奏曲。これもなかなかロマンティック(浪花節?)でした。

ラフマニノフの若いころの作品はまだ客の目(耳)を意識しているところがあります。後年のように、自分の主張ばかりが前面にでていません。いちばん有名な「ピアノ協奏曲第2番」と「交響曲第2番」は、20代後半から30代前半にかけての作品であり、息の長いメロディーを重視する、ロシア的な音楽が鳴り響きます。

前半の「ピアノ協奏曲第3番」は交響曲第2番の2年後で、弾くほうは大変ですが、客として聴くぶんにはそこまで難解ではありません。「ピアノ協奏曲第2番」ほどではないにしても、よく演奏会にかかるのもうなづけます。問題は、後半に演奏された「交響曲第3番」で、亡命後の作品です。最後の作品「交響的舞曲」のひとつ前の作品でもあります。

「交響曲第3番」を若いころはじめて聴いたときは戸惑いました。スヴェトラーノフの指揮した録音は、当たり前のようにスラブ音楽として聴かせるようとするのですが、どうも違います。その違和感を払拭してくれたのが、オーマンディとフィラデルフィア管の録音でした。遠い祖国への憧れというか、戻れない過去への哀哭がところどころにあらわれ、やっと意味がわかった気がしたものです。

23日の秋山さんと広響の演奏からも、ラフマニノフの繊細さ、神経質さ、生真面目さ、そして心の底にある哀哭が聞こえます。ただ、若いころと違い、この曲でラフマニノフは情動には流されません。ときおりカラ元気なドンチャカで過去への感傷を断ち切ろうとします。

それを丁寧に演奏していくため(客からみて)曲としてのとっつきにくさもそのまま出てしまいました。曲がそういう曲だしこれが正しいのですが、前列の(おそらく)高校生が少々退屈そうにしているのが見えて「未成年にこんな大人の世界がわかってたまるか」と、ろくな齢をとりかたをしていないくせに、ちょっと感じてしまいます(自分だって30くらいになるまでチンプンカンプンだったくせに、ねぇ)。

Symphony No.3, Op.44 (Rachmaninoff, Sergei) - IMSLP: Free Sheet Music PDF Download

たぶんその学生さんと話す機会はないでしょうし、こんな日記読んでるわけがありませんが、いまはインターネットで簡単にフルスコアが手にはいります。楽譜の最後の最後をひらいてみてください。終結部のカラ元気などんちゃん騒ぎは、じつは元ネタは「Dies irae(怒りの日)」です。

この作品はラフマニノフなりの自叙伝の性格をおびています。

「ピアノ協奏曲第3番」は曲が曲だけに、前回のシューマンのような浪花節っぽさはなく、三浦さんの端正さと美しさが勝ります。音から伝わってくる感じ(雰囲気?)は男っぽさがあるのに耳に入る音だけだと詩人そのものというのは、なかなか貴重な体験です。今後も、気づいたら出来るかぎり三浦さんの演奏に足をはこびたいとおもいます。