松村かえるの「かえるのねどこ」

旧「美風庵だより」です。

広島交響楽団 第417回定期演奏会

第417回定期演奏会 | 広島交響楽団

第417回定期演奏会(延期公演)
◆日時:2022年5月2日(月)18:45開演
◆会場:広島文化学園HBGホール
◆出演 指揮:秋山和慶  ヴァイオリン:辻 彩奈
◆曲目
 ショスタコーヴィチ:バレエ組曲「黄金時代」
 ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調作品77
 トゥビン(没後40年):交響曲第2番ロ短調「伝説的」
【辻彩奈さんアンコール】
 権代敦彦:ヴァイオリンのための「ポスト・フェストゥム」より Ⅲ
【オーケストラアンコール】(辻彩奈さん参加)
 ゲーゼ:タンゴ・ジェラシー

1月に行われるはずだった演奏会の延期公演が、5月2日に行われました。

この演奏会のメインは、トゥビンの交響曲第2番なのですが、じつのところトゥビンという作曲家を生演奏で聴くのは、今日がはじめてだったりします。

エドゥアルド・トゥビン - Wikipedia

エドゥアルド・トゥビン(Eduard Tubin, 1905年6月18日 - 1982年11月17日)はエストニア出身の作曲家・指揮者。
1944年にエストニアがソ連に占領されるとスウェーデンに亡命し、亡くなるまでストックホルムで活動を続けた。

まだ若いころ、インターネットで「ソ連風味のシベリウス」とか「ショスタコっぽいなにか」といった書き込みをみつけ、どんなものかとあまり期待せずに取り寄せたのが、ネーメ・ヤルヴィ指揮でBIS(というレコード会社)がリリースした交響曲全集でした。

しょうじきわからず、棚に押し込みっぱなしにしてしまい、のちに音楽データだけコピーして、CDそのものは中古屋に売り飛ばしてしまいます。

今回の演奏会にあたりALAC形式で保存した音楽データを聴き返してみても、「嵐のまえのしずけさ(つかのまの平和)」「超大型の嵐到来! or 進軍!」「焼け野原で祈るひと」といった感じで、なにがどう伝説的なのかすらピンと来ません。

この度、広島交響楽団が、私の父エドゥアルド・トゥビンの交響曲第2番「伝説的」を広島で初めて演奏することを知り大変嬉しく思います。ご成功をお祈りするとともに、いくつかのことを付け加えたいと思います。

この作品は、父自身が「伝説的」という副題をつけた唯一の交響曲です。どの伝説であるかは明示していませんが、エストニアの農民と異国文化の征服と服従を目論んだドイツ騎士団との戦いと解釈されています。それは、白と黒、光と闇、または善と悪の戦いと見ることができるかもしれません。最終的には白が勝利します。85年後の今日、ウクライナの人々の勇敢な戦いが連想されます。歴史的な類似が伝説に命を吹き込むかもしれません。

エイノ・トゥビン

当日のプログラム・ノートを読み、そういう音楽だったのか、とはじめて気づきます。

エストニアの歴史 - Wikipedia

エストニアはドイツ人、スウェーデン、ロシアなどの支配を経て、1917年の2月革命後にエストニア人の住む地域ははじめて一つに統合される。 

(略)

19世紀のエストニア民族革命で主導的な役割を果たしたカール・ロベルト・ヤコプソンは、13世紀から19世紀にいたるドイツ人支配時代をエストニア人の「闇の時代」と呼んだ。

理解するきっかけがあり、録音ではなく実演に耳をかたむけてみると、「ソ連風味のシベリウス」でも「ショスタコもどき」でもない、このトゥビンという作家の世界が広がっていました。初期シベリウスほど熱くなく、どこか叙景的な導入、そして異国からの侵略。

最後は勝利したか?

勝利の凱歌はありません。叙景的に締めくくられます。

故国がいまもつづいていることが「勝利」であると言うかのようです。

初期シベリウスのような景気良さもなく、ショスタコーヴィチのようなひねくれ感もなく、じつに直球で味があります。やっぱり曲はいっかいでも実演を聴いてみないと、わからんものですね……。

前半のショスタコーヴィチは、特有のモノクロームなのに原色っぽくぎらついたカンカン踊りがあちこちで聴こえ、ショスタコーヴィチならではの思索に沈むような音もよく出ています。「ヴァイオリン協奏曲」はとくにそうで、秋山さんとソリスト辻さんの掛け合いもたしかです。

ソリスト辻さんのアンコールピースは、もともと3曲あるうちの1曲だそうで、演奏の間、空気がかわります。曲というより、演奏家の力量と感性をそのままつかみ出して客席に放り込むような感じです。

辻さんはどうみても私の半分以下の年齢なのですが、音を聴いていると、これほどのことを考えているのかと驚くばかり。考えてみるまでもなく、様々な作曲家の世界に触れ、その世界を表現していかなければプロ演奏家ではないわけで、引き出しが少なくてはそんな真似はできません。すごい。

そして秋山さん、最後、コンチネンタルタンゴの名曲「ジェラシー」を辻さんも動員して一発ぶちかまして終了です。

Jalousie... Tango tzigane.... - Tanz-Orchester Geza Komor ! (1929) - YouTube

最初の音が鳴った瞬間(これ、タンゴのCDによく収録されているあれだよね。ほかに似た曲があるのか?)とおもい、あれだけシリアスな曲を並べた最後に、まさかこの選曲とは!やりますな。

ショスタコーヴィチといいトゥビンといい、最後のタンゴといい、これだけ味の違うものを並べて、きちんとひとつの演奏会として聴かせる秋山さんのたしかな手腕に、今回も脱帽です。

何度めかステージに秋山さんが呼び戻されたあと、指揮台のところでコンマスの足を蹴ったような気がしたんですが、あれがぶちかましの合図だったんでしょうか。

第264回定期演奏会【発売中!】 | 日本センチュリー交響楽団

第264回定期演奏会
2022年5月14日(土)14:00開演(13:00開場)
指揮:秋山和慶
ヴァイオリン:辻彩奈
ソプラノ:古瀬まきを
ハープ:篠﨑和子

ディーリアス
イギリス狂詩曲「ブリッグの定期市」

ブルッフ
スコットランド幻想曲作品46

ヴォーン・ウィリアムズ
交響曲第3番「田園交響曲」

次回はいまのところ、14日の日本センチュリー交響楽団の定期演奏会に行く予定です。ブルッフの「スコットランド幻想曲」も久しぶりです。いい曲なんですが、なかなかこの曲をとりあげる演奏会に出会わないんですよね……。