松村かえるの「かえるのねどこ」

旧「美風庵だより」です。

負け組の遠吠え(22)

私学統治改革案、修正の公算 文科省新会議で反発続出: 日本経済新聞

私学統治改革案、修正の公算 文科省新会議で反発続出
2022年1月12日 19:43 (2022年1月12日 22:20更新)

私立大などを運営する学校法人のガバナンス(統治)改革を議論する文部科学省の「学校法人制度改革特別委員会」が12日、初会合を開いた。私学側の代表者らが出席し、同省の「改革会議」が昨年末に示した評議員会の権限強化を柱とする改革案に対して「現実的ではない」などと見直しを求めた。
文科省は委員の過半数を私学関係者が占める特別委の結論をもとに、今月召集される通常国会で私立学校法改正案の提出を目指す。私学側の意見を踏まえて改革案は修正される見通しだが、私大幹部による不正が相次いで表面化するなか、社会の理解を得られる実効的な改革案を打ち出せるかが問われる。

過去の思い出話をひとつ。

まだ関係者には存命のかたもおられますので、控えめにぼかして書くことをお許しください。

或る私立大学に在籍していたころ、こんな話がありました。

その大学は、昭和末期に文系学部を増設しました。

当時の経営陣には、さいしょ学部増設の意思はありませんでした。

ではなぜ、そんな欲のない経営陣が、学部増設に踏み切ったのでしょうか?

話の発端は、或る旧帝卒で私立大学教員をしている者同士の、東京での或る会合にさかのぼります。

当時、九州には私立大学の文系学部があまりありませんでした。あっても、学生の質も経営者の質も低く、「先輩が数日で辞めた」ようなところで、国公立大学を定年退官後、再就職先を探そうとすれば、関西か東京に目を向けざるを得ませんでした。

大学教官はたいてい大学院を修了しています。高年齢になってやっと大学に就職できたひとも多数います。そのため、国公立大学を定年退官する年齢になっても、まだ子息におカネがかかったり、住宅ローン返済に追われているひとも多かったのです。そうなると退職金と年金では足らず、再就職先を探さざるを得ません。

その席で「帰りたい戻りたい、慣れない単身赴任をしなくて済むよう、どっか九州の私立大学が学部増設をしないものか」という話になりました。

それに反応したのが、東京の某私立大学で教授をやっていた男性でした。大学同窓の文部官僚OBと現役官僚に連絡をとり、九州に私大文系学部が出来たら単身赴任をやめて田舎に帰りたい希望者をつのります。

経営状況や私学助成金をたっぷりもらっている関係から、或る私立大学に目をつけ、官僚側が経営陣に接触し、教員の里帰り希望リストを渡して交渉します。

経営側にしてみれば、苦労しなくても旧帝クラスの業績も知名度も申し分ない教官がまとめて手に入るわけですから、飛びついたのは言うまでもありません。結果、時期をずらして文系学部が3つ増設されるに至ります。

当時、レベルの違い、規模の大小はあれども、こんな話がどこの田舎でも行われていたわけです。団塊ジュニア世代とその親御さんの大学進学熱を上手に利用した、官僚と大学教官による利権の構図そのものでした。のちに、あっせんの中心だった私大教授も転職し里帰りを果たし、新設された学部長に就任しています。

(税金をつかったマッチポンプじゃないか)とおもったものです。

表向きの理屈に騙されてはいけません!

もともと私学助成は、団塊世代が18歳をむかえるのに国公立大学だけでは進学希望者を収容できなくなることから、私立大学を受け皿として整備するため設けられたものです。

この私学助成金が出来たことで、分配を請け負う私学事業団は官僚OBの天下り機関となり、私学じたいもまた、経営側に、教育側に、積極的に官僚OB受け入れに加担しました。

この私学の拡充政策は、

(1)国公立に入れるオツムがない子息に大卒の肩書を与えたい親御さんから支持され、

(2)定年退官後のメシに困っていた大学教官に支持され、

(3)私学経営側もあらたな資金源が登場し、

(4)もちろん天下り先が増えて官僚もうれしい

入学希望者が増え続けるかぎり、国民の税金をみんなで美味しくたかるシステムとして機能します。

この歯車が逆転しはじめたのは、団塊ジュニア世代が大学入学年齢を過ぎ、少子化が進展して、えり好みしなければどこかに入れる「大学全入時代」になってからです。偏差値のひくい人気のない大学は留学生確保に走り、穴埋めできなければ経営悪化を理由に教員解雇に走るようになります。

私学経営者もまた腐敗したが。

私学助成金が経営に占める割合は、日大のような大きいところで5%ほど、一般的な規模で2割いくかどうかだったと記憶しています。むろん、授業料収入も寄付金も集まらない潰れかけ私大においては、もっと比率は高いでしょう。

適当な図録がないか調べてみましたが、残念なことに引用できそうなものがなかなかみつかりません。

学生をかき集めて規模を維持し続ければ来るおカネということは、教育の質を高めるより、学部を増設しまくったほうが儲かるということを意味します。私大の総合大学化の原因はこれです。学生のなり手がいないのに、受け皿(箱)だけがどんどん増殖していく……いったいなんのホラーでしょうか。

私学経営者は公務員ではありませんから、贈収賄の罪に問われることはありません。そして、せいぜい1~2割程度の助成金をもらったところで、残りは学費や寄付金などの学校の収入ですから、つべこべ言われる筋合いはないという意識をもっています。どうしても、助成金は税金であるという意識は薄れます。

日大の田中理事長の件も、あれはあくまでも日大という学校の問題であり、社会的倫理的な制裁は日大がうけるべきものです。私学助成の範囲で、国が関与する、もっと言えば私学助成金を返却させるべきですが、理事の首を部外者が切れる制度は、やりすぎで筋がとおりません。あきらかに、おかしいのです。

美名のもとに天下りシステムを完成させるな

今回の改革案は、部外者で組織する評議員会が理事の任免権をもつというものです。法令順守だの経営透明化だの言っていますが、この部外者に誰が来るかで、組織の命運が決まります。

文部省の天下り官僚が評議員にずらりと並ぶ姿が目に浮かびます。

私学統治改革案、修正の公算 文科省新会議で反発続出: 日本経済新聞

早稲田大の田中愛治総長は「私学は透明性のある意思決定をする責任を負うが、評議員会に権限が集中すると、権力を得ようとする人間がそのポストを狙うことにつながる」と述べた。

さすが早稲田の田中総長、田中清玄*1さんの御子息だけのことはあり、これが官僚の過剰介入の布石であることを、見抜いています。

日大の田中理事長をみせしめにして世論を誘導し、どさくさまぎれで天下りシステムを完成させようとしているとしかおもえず、あまりのあり得なさに嫌気がさします。

本筋は、私学助成金の廃止です。

では、どうあるべきでしょうか。

以前にも書いたとおり、私学助成金を廃止すべきです。

規模を維持すればおカネがもらえる制度は、すでに時代遅れとなり、健全な淘汰を阻害しています。

戦前は、貧乏人にも広く門戸を開放した学費ゼロの師範学校、陸軍士官学校、海軍兵学校をはじめとした教育機関がありました。

理想をいえば、いまでも防衛大学校以外にも学費ゼロで通える大学が存在してよいとおもいます。増やすべきです。

定員割れを回避するため、希望者を全入させたり留学生をかき集めたりする潰れかけ私大に助成金を出すよりも、国公立大学の学費をおさえるために使うほうがよほど社会のためになります。

そして、私学助成金を廃止することは、天下りを受け入れるメリットもなくなり、官僚と教員の定年後の受け皿として私大が学部新設しまくってきた現状を見直すことにもつながります。

税金垂れ流しを止めるほうが、ほんらい、先です。

こんな改革案より、よほど私学経営は透明になるでしょう。

弱者は市場から退場する、これだけのことです。

官僚の姑息な世論誘導で、病の原因に手をつけず、きれいごとでごまかされてはなりません。

腐ってますね。

ほんと、この期に及んでまだマスコミを巻き込んで国民を騙すのでしょうか?

仲良く美味しく楽しく税金をしゃぶってきた共犯者(官僚)が、急に善人面して、私学経営者にすれば面白いはずがありません。しかも「持ちつ持たれつ」から「コンプライアンスの美名のもとに乗っ取り可能」な体制に「改革」しようとしています。

そんなに天下り先が欲しいか!

最悪です。新聞を読んで頭がクラクラしました(笑)