松村かえるの「かえるのねどこ」

旧「美風庵だより」です。

ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第172回

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注)文書作成時に画像が傾いているのに気づき修正したので、日付が切れています。申し訳ありません。

:公演情報│ミューザ川崎シンフォニーホール

ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第172回

日時
2021年12月18日(土)14:00開演

出演
指揮:秋山和慶
ソプラノ:安井陽子
メゾソプラノ:清水華澄
テノール:宮里直樹
バリトン:加耒徹
合唱:新国立劇場合唱団

曲目
ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調op.125「合唱付き」

「蛍の光」

急に天候が荒れ、飛行機の便を変更して聴きに行きました。

福岡に戻ってきてからこれを書いているのですが、羽田空港周辺は風はつよかったものの気温はそこまで低くなく、むしろ福岡に戻ってきてからこごえています(笑)福岡は日本海側ですしね……。

入場開始まえに会場をとおりかかると、完売御礼で当日券なしとのこと。人気の高さがうかがえます。

入場時間少し前に戻ってエスカレータをあがったところで待っていると、「これぞ定番」「毎年たのしみ」と言いながら完全に「密」で年配のかた数名が話し込んでおられました。どうやら幹事役が居るようで、入場券を配ったりしています。

彼らの後ろについて入場すると、そのまま同じエスカレータに乗り、なんと同じ扉から客席にはいっていきます。私の後列でした。こういうことってあるんですね……。

 

「マイスタージンガー」の冒頭で、軽くパラけたように聴こえました。舞台正面なんてなかなか座らない場所だからかもとおもいましたが、やはり違和感があります。

コンサートマスター:小林壱成 | 東京交響楽団 TOKYO SYMPHONY ORCHESTRA

コンサートマスターのかた、お見かけしないかただとおもっていたら、今年9月に就任されたばかりとのこと。1994年生まれって、若いなぁ……。

ほんの一瞬のパラけがおさまると、上品ななかにしっかりと言いたいことがつまっている秋山さんの「マイスタージンガー」がはじまります。ホルンが良かったですね。秋山さんで「マイスタージンガー」を聴くのはどう考えても今回がはじめてではないのですが、こんなに可憐だったかと思わせる場面もあり、こう言ってはなんですが、チャーミングに終わりました。

そして「第九」がはじまります。福岡で、広島で、東京で、ここミューザで何回も聴いた秋山さんの「第九」です。

「安定の」「定番」と、私の前を歩いていた集団の幹事役がわかったように言っていましたが、とんでもない。より情動を重視したものへと変遷してきました。もともと秋山さんは歌わせるときはほかの指揮者よりも朗朗とやります。内面の歌心が、たしかな指揮の技術・頭脳・耳と一体になったアルチストを超えるアルチザンであり、空前かどうかは知りませんが、いまのところ絶後であることは(私の聴いた範囲では)たしかです。

それこそ何度も聴いているはずなのに、第一楽章の終わりで泣けてきました。第九はどうしても「歓喜の歌」がメインだと思われがちです。しかし「みんな、こんなのじゃない!もっと楽しい喜びの歌をうたおう!」と否定される側こそ、分厚い哲学書・純文学・純音楽であるべきなのです。秋山さんはこの点をぬかりなく表現してくれるから、「歓喜の歌」が映えます。

そして第3楽章も、聴いているうちにあっという間に終わりました。決して短い曲ではありませんが、いいなぁ……とひたっているだけで、いつのまにか終わります(寝ているわけではありません)。ただ、欲を言えば、ヴァイオリンが弱かったかな、という気がします。否、入りがパラけ気味だったのかも。ここぞというところで、鮮烈な「ジャーン」にならなかったのが惜しく、次回、出会うことがあれば、この若いコンマスさんに期待したいと思います。

「歓喜の歌」は、コロナの影響でみかけるようになった合唱団の数を最小限に絞って行われるものでした。

アマチュア合唱団の数は力(えてして破防法寸前の暴力だったりもするのですが)と違い、発音発声はとうぜん的確です。もう今後、このスタイルで毎年やっていいんじゃないかとおもえるほど、神々しい合唱です。そして、バリトンのかたが良かった。空気を一変させる存在感でした。

そして最後は「蛍の光」。最後の盛り上がりにほろりと来てしまいます。

今回も素晴らしい演奏でした。