松村かえるの「かえるのねどこ」

旧「美風庵だより」です。

「必殺仕切人」

動画配信サービスの無料体験期間を利用して、寝る前にむかしの必殺シリーズを1日1~2本ずつ視聴しています。

必殺仕切人 - Wikipedia

必殺仕切人 全話パック|テレ朝動画

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08KKV8G4L/ref=atv_dp_share_cu_r

まず、1984年に放映された「必殺仕切人」をぜんぶ見終わったところです。

三味線屋の勇次 - Wikipedia

この「仕切人」、中条きよしさん演じる三味線屋の勇次が登場するので、本放映時、毎週眺めていた記憶があります。

家族が必殺シリーズを視聴しているとき、(金曜22時に)起きていたらそれに付き合って眺めることはありましたが、積極的に起きて視聴することはありませんでした。家族にたしなめられつつ毎回視聴していたのは、三味線屋の勇次が登場する「新・必殺仕事人」から「必殺仕切人」にかけての時期で、のちに本物の三味線糸を手に取り、いくらなんでもこれで首吊り技は無理だと、拍子抜けした記憶があります。さらに後年知ったのですが、三味線の三の糸は、絹糸ではなくナイロンやテトロンが使われているものがあるそうで、これなら人も吊れるかもしれません(江戸時代にあるはずないけど)。

「仕切人」の三味線屋勇次は、三味線糸に金具を通して糸を揺らして天井に突き立てて支点にしたり、糸で刀を巻き取って瓦に引っ掛けて支点にしたりと、それまで以上に、道具を使いこなし、華麗な技を披露するようになります。ヒノキ風呂の底に金具を突き立てて、(浴槽に身体を引きずり込んで)溺死させたりと、技も豊富で見ていて飽きません。

というより、記憶に残る吊り技のほとんどが「仕切人」だったことに驚きます。

必殺シリーズが好きというより、三味線屋勇次のファンだったわけです。

もともと「必殺仕事人」以降、ふざけた話が多いのですが、そのなかでも「仕切人」全18回は、おふざけの底が抜けてやりたい放題でした。子供ながら「大砲の試射が人体実験」「ニセ小判の密造拠点に秩父山中にピラミッドを建てる悪党」「出羽月山からさらわれた子供を探すためターザン(他佐衛門)がチンパンジーをつれてやってくる」「鳥人間コンテストの優勝者に偵察を強要し言うことを聞かないため、殺してハンググライダーを悪党が取り上げる」「忠臣蔵のパロディ」と、或る意味世間を馬鹿にしまくった展開に、家族ですら呆れ、自分ひとりで視聴していました。

京マチ子 - Wikipedia

登場人物のなかで元締格として設定されているのが、京マチ子さん演じる「お国」でした。エンドロールの「キャスト」で最初に表示されますから、主人公扱いだったことになります。彼女は大奥を追放され、江戸市中で町占いを開業して生計をたてているという設定で、殺し技は朱塗りの筮竹を首筋に突き立てるというもの。

殺しに入るまえに筮竹を鳴らしながら登場し、悪党に「何をしている!」と訊かれると、「貴方様のご寿命を占っております」と言いつつ筮竹を選り分け、「沢水困(たくすいこん)、卦は凶!」と言って、筮竹を相手に投げつけて目くらまし、背後に回り込んで首筋に筮竹を突き立て「お命、終わります」と言いながら引き抜く。回によっては「沢水困」ではなく「風山漸」だったり、どの卦が出たかを言わずにいきなり「卦は凶」で殺しに入ることもありましたが、基本的なパターンは前述のとおりでした。

京マチ子さんが演じた仕事人は2役あります。この「仕切人」の「お国」と、「仕舞人」「新・仕舞人」の「坂東京山」で、お国の印象が強いせいか、どうも坂東京山にはいまだに影が薄く感じます(仕舞人2作は本田博太郎さんが目立ちすぎているというのもあるのですが)。

今回、あらためて視聴してみて思ったのですが、「仕切人」が、のちに占いに凝るきっかけのひとつだったのかもしれません。

「沢水困」は沢の水が干上がる意味で、世のなかを泳ぐ魚である私たちは、水が干上がってしまえば進退きわまり呼吸もできません。なので大凶と判断します。これを殺し技の前に悪党に宣言するのは、わかります。
ところが「風山漸:ふうざんぜん」となると、山上の樹木が次第に成長する意となり、これが凶なのかどうかは悩むところです。膠着状態での風山漸なら、多少でも物事が動き出すわけですから、決して悪くないはずなのですが……。しかし、むかし癌患者の病状をある占い師に占ってもらった際、風山漸を凶とし、見立てのとおり1年後に再発してお亡くなりになられたのをみました。それから考えると、重病に漸進では屁にもならず、凶と判断すべきときもあるのかもしれません。

第17回「もしも江戸に占いブームが起こったら」は、築城コンテストに応募しようとする青年が、図面を悪党に奪われ、手柄を盗まれ殺される話です。この青年は門の配置に悩み、お国に奇門遁甲の築城術を助言してもらいに家を訪れます。このときお国は「諸葛孔明は玉女守門と呼び未申(ひつじさる)の方角を門とするのがよいとした」と助言します。未申とは南西のことです。

玉女守門は南西以外にも回ってくるし、そもそも裏鬼門が門に最適って?

それにしても、あらためて視聴して感じるのは、話の筋の分かりにくさです。

1時間の時代劇でCMをのぞくと正味46分くらい。そのうち12~13分は、仕切料の分配→仕切り→エンディングとなるため、どうしても動機付けが駆け足にならざるをえません。これは「仕切人」にかぎらず、後期必殺シリーズ全体の問題ではあったのですが……。