松村かえるの「かえるのねどこ」

旧「美風庵だより」です。

3月29日の日録

午前中、日曜開庁日ということで仕事に出る。
仕事場から帰宅する途中、駅前のレッドキャベツで総菜を買う。

舞 ― 伊福部昭の芸術3 舞踊音楽の世界

舞 ― 伊福部昭の芸術3 舞踊音楽の世界

  • 発売日: 1995/11/22
  • メディア: CD
 

本日は伊福部昭さんの「サロメ」を聴く。
個人的なお気に入りは広上さんと日本フィルの録音である。

舞踊曲「サロメ」

舞踊曲「サロメ」

 
伊福部昭の管絃楽 Orchestral works by Akira Ifukube

伊福部昭の管絃楽 Orchestral works by Akira Ifukube

  • アーティスト:伊福部昭
  • 発売日: 2014/05/31
  • メディア: CD
 

ほかにamazonなどで入手可能なものとして、ヤマカズさんと新星日響のもの、岩城さんと都響によるものがある。
世評では、ヤマカズさんと新星日響のものがダントツ高評価だし、若いころはそれに呑まれていたのだが、この齢になってみると、どうも違う気がしてくる。
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サロメ (戯曲) - Wikipedia

サロメ(オスカー・ワイルド)日本語テキスト(訳:白神貴士)

ヘロデ
(立ち上がり)おぉ!兄の妻が何か語っておる…来るのだ!こんな処に居られるものか。
来いというのに。必ず怖ろしい禍が降りかかってくる…
マナッセ、イサッカー、オジアス、灯を消せ。わしは見たくない。
あんな惨いものを見たくない…灯を消せ!月を隠せ!星を隠せ!
宮殿に隠れよう。ヘロディアス、わしは心底怖ろしくなってきた。
(奴隷たちは松明を消す。星も光を失い、黒雲が月を覆って舞台は暗くなる。王は階段を上り始める)

サロメの声
あぁ!…キスしたよ、ヨカナーン…お前とキスをしたよ。お前の唇は苦い味がする。
これは血の味かしら…それとも恋の味かしら。恋は苦い味がするというもの。
でも、そんなことは何でもない、何でもない…
私はお前とキスしたよ、ヨカナーン、私はお前の唇にキスしたよ…
(月の光が一筋サロメに落ち、彼女を照らし出す。)

ヘロデ
(振り返りサロメを見て)その女を殺せ!
(兵士が突進し、その盾でサロメ、ヘロディアスの娘、ユダヤの王女を押し潰す)
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ワイルドによる原作を日本語訳したものの結末部分を引用する。

ヘロデは兄を殺して自分がユダヤの王におさまっている。兄嫁ヘロディアスを妃としているが、実のところはその娘サロメにぞっこんで、いつかものにしてやろうとしている。サロメヘロデ王を嫌悪しており、彼の下心ありありの誘いにのろうとはしない。
ヘロデから「ここで踊ってくれたら褒美をとらす」と誘われ、サロメは七つのベールの踊りを踊り、その褒美として聖者ヨカナーンの首を求める。ヘロデがしぶしぶヨカナーンの首を与えると、サロメは聖者ヨカナーンの首に口づけして、愛を語る。
そして、上に引用した最後の場面「この女を殺せ!(Tuez cette femme!)」につながる。
 
ヤマカズさんほどの指揮者なら、とうぜんわかっているはずである。喜びで狂乱するサロメの心情を表現するほうが優先しているのだろう。ただ、どうもワイルドの原作を読んでいると、そこにあるのは、でっぷり太った、力でなんでもものにしてきたスケベクソ親父が、どうしてもものにならない若い女に逆ギレして「殺せ!」とわめきちらしている場面なわけである。それをサロメの心情表現だけで突っ走るのは、どうも視座が違う気がする。広上さんの演奏についてamazonの評価に「優等生」とあるが、一歩引いた表現が、むしろ正解なのだ。

たしかに、突っ走って暴れてくれたほうが面白いし、若いころは赤貧もそう感じていたのは間違いない。ただ、舞踊曲(バレエ音楽)と作曲家が自ら銘打っている以上、もしかするとこれが伊福部さんの想定していたテンポではないか、という気がする。

伊福部昭の自画像 [DVD]

伊福部昭の自画像 [DVD]

  • 発売日: 2014/11/19
  • メディア: DVD
 

同じ伊福部さんに「日本の太鼓」というバレエ音楽がある。若いころ、自ら指揮して新星日響と共演したCDが出ており、いまはDVDになっている。これを聴くとわかるのだが、アレグロのはずなのに、めっちゃ遅いのだ。アレグロと言いながら、踊り手が足を踏み鳴らすための間をとっていることがわかる。となると、おそらくサロメも同様の処理を望んでいただろうし、伊福部さん「監修」と銘打った録音がいちばんテンポがゆったりしているのも、むべなるかな、ということだ。