美風庵だより

幻の花 散りぬ一輪 冬日の中

2月23日の日録

今日も小説風に。

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前日の朝、LINEを確認してゐたら、知人から1週間ほど歸郷する旨の聯絡が來てゐたのを知つた。今囘は3連休なので月曜にゆつたりと休み、そのかはり土日で個人事務所の用事を濟ませるつもりだつた私は、いまからほかの用件をキャンセル出來るかどうか考へてみた。こちらから一度了解しておいて、當日にダメだと云ふのは商賣人として失格であらう。矢張りそれはむつかしい。しかも新型肺炎の擴大で、樣々なイベントや講演會が中止に成つてゐる。この3連休も、急な中止で片附けの人手不足があると聞いてゐる。
矢張り當初の豫定どほりにするべきだらうと思ひ直し「時間があれば會ふ」旨、LINEで返事をする。
普段なら6時までには起牀するのだが、今朝に限つては、やつと起き上がつたのが7時過ぎだつた。ベランダと玄關先の鉢植ゑの樣子を確認して、着替へ、田主丸の神社めぐりに出かける。
逆算すると14時までには自宅を出て、小倉に向かはなければならない。現地滯在の時間まで合はせて、往復30kmほどの行程のときは、神社めぐりに4時間ほどかかつてゐる。8時までに出ればお凡そ12時ごろには戻れる計算と成り、都合がよい。

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私は8時に家を出て、「さんやさま」の元宮 久留米市田主丸町益生田の月讀神社ほかを訪問した。歸りにその足でダイレックスに立ち寄り、晝飯用にカップ燒きそばを贖入する。着替へたりする時間を考へれば、あまり手のかかるものは避けたかつた。
輕く即席めんと大根の淺漬けで晝食をすませ、着替へて驛に向かふ。
天氣が良いのは良いのだが、のんびり出來ずあれこれしなければならぬ生活困窮ぶりがつらくなる。現在の本業は3年契約だし、契約終了後は個人事務所の一人親方に戻らねばならない。その間、個人事務所時代の顏つなぎがあるから、事實上、仕事を掛け持ちしてゐるのとまつたく變はらない。

小倉の事務所に用があるのは、前の仕事場を追放されたあと世話に成つてゐるT氏がここに在籍してゐるからである。
ただ、私にとつてもそのはうが都合が良かつた。
この事務所の本店格は福岡市内にあるのだが、前の仕事場で顏を合はせてゐた某社の營業達と、道で出くはすことが多かつた。彼らの事務所とバス停ひとつ離れてゐないのだから、ある意味では當然とも言へた。前の仕事場を追放されてすぐのころは、憐憫の情を顏に浮かべながら經緯を尋ねたがり、全く違ふ世界に居ることを知つてからは、意外なところに人脈があつたのだと一樣に驚いてゐたのを、私は忘れない。
私が今のマンションを贖入したとき、純金積立や積立定期の殆どを手放した。それから12年辛抱して、殘る住宅ローンを前の仕事場の退職金で穴埋めし、身輕に成つたとも言へる。その代はり手元には、過去數年のあひだに貯めた純金積立の殘高だけしか殘らなかつたのだが。
結果として、收入はそれほど變化がないものの、イチから老後の資金を再構築しなければならない羽目と成つた。冗談で生活困窮者とうそぶいてゐたのが、本當に赤貧(せきひん)と成つてしまつた。
小倉には知り合ひが居なかつた。
小倉の事務所であれば、落魄した姿を過去の知人にさらさなくて濟む。車で通ふにしても國道322號線と、少し迂囘するが縣道を通れば、ほぼ一本道で事務所に到着する。福岡市内に向かふのと、道の混みようが全く違ふ。
公共交通機關を使ふときは、バスと西鐵電車を乘り繼ぐやうに成つた。どうしても急ぐときは、博多から小倉まで新幹線を利用する。JRはほぼ利用しない。一人親方に成つてすぐのころ、前の仕事場で顏見知りに成つた方とばつたり會ひ、走行中の車輛内を大聲で私の名前を呼び、彼は、なぜ辭めたのか理由を聞きたがつた。
なにがあつたのか、としつこく聞かれても、公衆のなかで話すべき内容ではない。はぐらかしつつ別れたが、どうはぐらかしたのか、既に覺えてゐない。どうもJRは過去を知るひとと乘り合はせる確率が高いらしい、と云ふことだけは、身に染みた。

遠い日の海 (講談社文庫)

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用事が終はつたのは19時で、それから下關驛のバスターミナルに移動し、福岡天神に向かふ高速バスに乘る。用件のあつた場所から小倉まで戻るより、下關驛まで移動するはうが近かつた。
車内で、高井有一さんの「遠い日の海」の電子版を讀む。