松村かえるの「かえるのねどこ」

旧「美風庵だより」です。

東京交響楽団 名曲全集 第152回

tokyosymphony.jp

f:id:bifum:20191214131650j:plain

f:id:bifum:20191214131659j:plain
f:id:bifum:20191214132605j:plain

昨年、秋山さんと東響の「第九と四季」の最終回に居合わせることができました。
以前から「第九と四季」に行ってみたいとは思っていたのですが、前の仕事場時代には年末ギリギリまでいろいろと所用があり、上京なんてとても無理でした。
追い出されて個人事務所持ちの自営業となり(その後、その事務所を休業して今の仕事場に雇われたのですが)、そういうしがらみもなくなって、やっと年末に出かけられるようになったのが2017年のことでした。つまり、最後の2回だけ、聴くことができたわけです。
いくら正月から初売りセールをやるような時代になったとしても、1年の区切りはあります。第九を聴くのも、大事な恒例行事です。
 
思い出せば、若いころは1年の締めに、朝比奈さんと大フィルの「第九の夕べ」に足を伸ばすことができた時代もありました。まだ若く、いろいろなことを押し付けられずに済んだころです。
朝比奈さんがお亡くなりになる前年くらいからいろいろと所用ができて、最後の年は年末に出かける旨のお断りをして、やっと行けたのを覚えています。まぁ、そういうしがらみが嫌なら田舎から出ろ、ということでもあるわけで、ここでグチってもしょうがない事ではあるのですが。
 
朝比奈さんの第九の思い出話を書いてしまったのは、やはりアンコールの「蛍の光」の影響でしょうか。
朝比奈さんと大フィルの「第九の夕べ」は、合唱団がペンライト(懐中電灯?)を持って、最後は少しずつ消灯してしめやかに終わります。
秋山さんの「第九と四季」は、オケの伴奏ありで、NHKの歌謡ショーばりに終わります。この日記を書くにあたり、初めて「第九と四季」を聴いたときの感想を読み返してみました。当惑がよくわかります。この違いが、朝比奈さんと秋山さんの根本的な違いなのだと理解して楽しめるようになったのは、2度目、つまり昨年の最終回でした。
 
エスカレータや階段でホールをあとにする最中、「泣いた」「泣けた」とあちこちから会話が聞こえます。
赤貧も不覚ながら第九の第四楽章の最後のほうで泣けてきてしまいました。いくら演奏に没入しても、なかなか泣くことはありません。
 
----------------------------------------

https://youtu.be/fxu4A0wzz1M?t=4726

おもわず泣けてきたあたりを、youtubeにアップロードされている朝比奈さんの演奏で示すと、このあたりです。ラスト一歩手前のところです。
----------------------------------------
 
第九で泣くというと、今でも思い出すことがあります。
1999年の朝比奈さんと大フィルの「第九の夕べ」のときだったと思います。
フェスティバルホールで隣の高齢の(棺桶行きが近いような)女性から「毎年この演奏会だけは必ず来るようにしている。蛍の光で泣く」と話しかけられました。このことをネットに書いたところ「嘘に違いない」「捏造だ」と書かれ放題となり、かなりあとまで気分を害したのを覚えています。いまになってみると、目が悪い赤貧が前屈みになって舞台を眺めていたので、その隣の女性からまず「よく見えない」と小声で注意された前段がありました。最後の蛍の光が終わったあと、再び話しかけられたわけで、いきなり唐突に話しかけられたかのような書き方をしたのは不味かったかな、という気はします。当時は若かったので、自分の非があることをネットに書くほど、厚かましくありませんでした。
 
この日の演奏会では、第九の前にブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番が演奏されました。ブルッフのヴァイオリン協奏曲は何曲もあるのですが、実演でお目にかかるのはこの第1番とスコットランド幻想曲くらいで、もったいない作曲家です。今回初めて聴くソリストのかたですが、伸びやかな演奏です。秋山さんの伴奏は、この曲が求める情熱をしっかりと描いていて、どこか決然とした表情さえ感じられます。最初、この伴奏には彼女の線が細いかな、とも思ったのですが、埋もれている印象はありません。彼女は彼女なりに、この曲の歌心(それはロマンと言い換えて良いでしょう)を理解して、表現しています。どう見ても若いのに駆け引きをして大胆だなと思っていたら、すでにだいぶキャリアのあるかたのようです。将来、またどこかで実演を聴くことができるでしょうか。楽しみです。
 
今回の演奏会で選んだのは3階席でした。ちょうど、オーケストラと合唱団を上から頭を突っ込んで聴く位置です。いろいろ意見はあるでしょうが、曲を見通しやすい(楽器が判別しやすい)のは、やはりこの位置です。指揮とオーケストラ、合唱団、ソリストのやり取りもよくわかります。
おそらくは舞台の都合でしょうが、第九は、最初から舞台に演奏家全員が登場します。第3楽章の前にソリストと打楽器奏者が途中入場してくる演奏が多く、そこで拍手が入るためどうも興をそがれることが多いのですが、14日はそのようなことがありませんでした。それも、演奏に没入できた要因だという気がします。

ところで、きょう指揮したのは? 秋山和慶回想録

ところで、きょう指揮したのは? 秋山和慶回想録

  • 作者:秋山和慶,冨沢佐一
  • 出版社/メーカー: アルテスパブリッシング
  • 発売日: 2015/02/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

指揮者が目立つのではなく、まずは曲、という秋山さんのモットーは、文化功労者選出のときに出版された回想録の題名にあるとおりなのですが、それが必然的に含む反骨精神というか反抗心が、プロ指揮者 秋山さんの本領です。

14日も楽譜が透けて見えるような演奏でありつつ、純度もすごいものがあります。昨年から、さらに練り上げられています。練り上げるという表現は妥当ではないかも知れません、もう一段、掘り下げられています。朝比奈さんは山登りにたとえて繰り返し同じ曲を取り上げましたが、秋山さんの場合は、掘り下げていっている気がします。赤貧が若いころは両極端の個性だと感じていましたし、いまもスタイルは明らかに違うのだけれど、いずれどこかでぐるりと一周して邂逅するのではないかとすら、思えてきます。
合唱団の最後のひとりが舞台を退出するまで、一部のお客さんが残って拍手をしていました。

ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団名曲全集第162回:公演情報│ミューザ川崎シンフォニーホール
来年2021年12月20日に、再びミューザ川崎で第九です。がんばって交通費を稼いで、聴き逃さないようにしなければ。
----------------------------------------

ミューザ川崎シンフォニーホール
2019年12月14日(土)14:00開演

指揮:秋山和慶
ヴァイオリン:シャノン・リー(第7回仙台国際音楽コンクール第2位 ※最高位)
ソプラノ:吉田珠代
メゾソプラノ:中島郁子
テノール:宮里直樹
バリトン:伊藤貴之
合唱:東響コーラス

曲目
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調作品26
ベートーヴェン交響曲第9番「合唱付」

----------------------------------------