火をつけて最初の香りは、スパイシーさがない仙年香といった風情です。ほのかに甘く優しい香りはくせがなく、戦前のベストセラーであったというのもうなづけます。いまのように合成香料の香りに慣れてしまうと、このようなほのかな天然物の香りはなかなか受け入れにくいのかもしれません。
孔官堂の仙年香や日本香堂の毎日香のように、丁子や白檀をわかるように配して鼻を刺激するもののほうが、個性があるためか大きく生き残っています。ただ、そうではない奥ゆかしさもまた、線香の妙味なのです。久しぶりにその妙味を味わえる名品に出会いました。