松村かえるの「かえるのねどこ」

旧「美風庵だより」です。

「帰ってきたヒトラー」

帰ってきたヒトラー 上 (河出文庫)

帰ってきたヒトラー 上 (河出文庫)

 
帰ってきたヒトラー 下 (河出文庫)

帰ってきたヒトラー 下 (河出文庫)

 

 赤貧です。最初は面白いのだろうかと半信半疑で読みはじめたものの、途中からまったく笑えなくなり一気に読了しました。おそらくヒトラーが2011年に、過去の意識をもったままタイムスリップしてきたら、ほんとうにこうなっていたかもしれません。
なんせ頭が良い。インターネッツでググり、wikiで知識を得て六十数年の空白を埋めていき、スマホを操り、人気ユーチューバーから再度の政界進出へ……。
肉食を断る場面でさらりと「責任者として健康を保つことは国民への第一の責務」と言い切り、極右政党の党首を国家を背負う自覚がないとなじり、必要とあればガス室で家族を失ったユダヤ人の説得を申し出る。心身健全な若者こそ国家の希望と言い、逆境を神が与えた試練と受け止め、それでいて街の新聞スタンドの親父と紅茶をたしなむ。ドイツを素晴らしい国と信じて、生存闘争に打ち勝つにはどうすればよいかを悩む。
「悪いことばかりじゃなかった」というスローガンをえらび、再度政界に打って出る……どうもまたやらかしたいらしいとにおわせるところで小説は終わります。
言っていることはそう間違ってはいません。ホロコーストを「私を選んだ国民が悪い」と強弁するあたりは、たしかにその一面はあります。
いまの日本政治でも、ろくでもないか、少しはましかの選択しかないように感じるのは、日本人がろくでもない存在ばかりになった証左なのでしょう。
途中からまったく笑えなくなりました。日本の戦争指導者を主人公にしてif小説を書いても、こんな感じにゃならんでしょうね……。ゲルマン民族恐るべし。