美風庵だより

幻の花散りぬ一輪冬日の中

「ひとひらの雪」

 

ひとひらの雪(上)

ひとひらの雪(上)

 

 

ひとひらの雪(下)

ひとひらの雪(下)

 

 ひさしぶりに読み返しています。渡辺淳一さんの存在に最初に気づいたのは「メトレス 愛人」だったとおもいます。たしか、はしのえみが出演していたテレビで番組で「今週の売れ行き1位」と紹介したのが「メトレス 愛人」で、それを見て流行に乗り遅れまいと、飯塚バスセンターのなかにあった書店で購入したのが高校生くらいだったでしょうか。
「メトレス 愛人」で味をしめ、その次に買ったのがたぶん「ひとひらの雪」だったかとおもいます。渡辺淳一さんの作品は「愛の流刑地」という突き抜けすぎた作品があって、どうしてもそこが目立つのですが、おそらくは立原正秋谷崎潤一郎の後継を意識した「化粧」や「ひとひらの雪」あたりが、もっとも内容のよい作品だという気がします。
この「ひとひらの雪」、簡単に言えば妻子と別居中の男が、個人事務所の事務員と不倫し、なおかつ昔の同級生の妹と不倫までするという話、まぁ、男のクズが主人公の作品です。
ただ、赤貧にはこれはよくわかる気がしました。
こう言ってはなんだけれど、中華も洋食も和食も良いのです。年上年下既婚未婚、いろいろあってもチャーミングな女性には程度の差こそあれ恋をするのが男というもの。これを否定されたら男は生きていく場所がありません。

紀州ドンファンと主張していた男性のように、「何人とやりました」と主張するのは俗物すぎて赤貧でも理解できない世界ですし、逆に言えば「なんでそんなに逃げられたんですか?」ということです。ああなってはいけません。
今になって読み返すと、この時代だから成り立った作品なのがよくわかります。いまのようにLINEや携帯でどんどんお互いが丸裸になっていく時代では、こんなに時間をかけてゆっくり対話なんてできないでしょうし、身体の関係が深まるまえに互いの心があけすけになりすぎて、夢も希望もありません。バブル崩壊前の、まだ電話と手紙がひとの意思を伝達する最有力の手段だった時代を知る者にしか読めない(理解できない)世界がここにあります。
「結婚してもいいなとおもう相手を落とすときと、結婚を約束させるときの2回しか婚前のセックスは許さない」と、女性が豪語しているのをむかし目撃したことがあります。逆に男性は何度もその相手としながら、こいつはおれのもの、と再確認しつつ相手への感情移入を深めていくものなので、その女性がのちに結婚したとき、よく捕まる男がいたものだとびっくりした記憶があります。
話がすっかりずれてしまいました。

しかし、40過ぎて再読してみると、主人公がやたらと言い訳が多いのにウンザリしてきます。言い訳をするために旅行したり人妻に手をつけたりしている印象すらあって、どこか紀州ドンファンと根底で通じている気もしなくもない……。