松村かえるの「かえるのねどこ」

旧「美風庵だより」です。

「楽しく学ぶ 井上千圃 三体千字文」

楽しく学ぶ 井上千圃 三体千字文 (最高のお手本シリーズ)

楽しく学ぶ 井上千圃 三体千字文 (最高のお手本シリーズ)


井上千圃というかたは、戦前の教科書を書いていたかたです。
むかしは、活字ではありませんでした。すべて手書きして、それを版下にして、印刷していたのです。やがて、教科書が分厚くなり、手書きでは間に合わないということで、井上千圃さんが文字を書き、それを活字にして印刷するという手法がとられるようになりました。
これが、現在の教科書体の原型です。
このかたのお弟子さんに、ペン字をやるとすぐ名前が出てくる三上秋果さんというかたが居ます。赤貧が小学生のころ、自宅にあった机上辞典という国語辞典をよく利用していました。この辞書、普通の国語辞典よりも実用に振ったもので、英単語とペン字の手本が収録されていました。
大人になってあとで知ったのですが、収録語数46,000語の辞書をつくるための予算が2億円だったそうです。赤貧が小学生のころの2億円ですから、今では倍近い価値があると思われます。ここに収録されているペン字も、編集して文字を組み合わせたものではなく、大きな原版に書いたものを縮小して印刷したものだったということも、あとで知りました。くせのない美しい文字とはこういうものをいうのか、と当時ほれぼれしていた記憶があります。
考えてみると、この両名にかぎらず、美しい文字へのあこがれは昔からあった気がします。
ただ、あこがれるばかりで、実際には書けないのが難点ですが。どうやったらクセを封じ込むことができるやら……。