美風庵だより

幻の花散りぬ一輪冬日の中

美味しんぼ76巻

 

 たまたま美味しんぼで記憶に残る話はなにか、という話がありました。自分が推したのは「雄山の危機」という回。
海原雄山が交通事故で人事不省となり、山岡士郎が雄山のかわりに美食倶楽部で行われた首相主催の食事会を成功させる話です。
単行本の刊行が2000年ですから、もう18年以上むかしに発表されたことになります。

しかし、なんで山岡と栗田ゆう子が結婚するなんて話になるのかねと当時から不思議に思ったものです。
いまになってみると下手な実業家の嫁におさまるよりも、海原雄山の息子という知名度と、すでに名を成した美食倶楽部の収益が手に入るわけで、どこの誰よりも最高に賢かったといえます。これから偉くなる(かもしれない)成金、もとい実業家に人生を賭けるより、同族嫌悪でいがみあっているとはいえ甲乙つけがたい2代目の嫁におさまったほうが、安泰ですからね……。
このあとも、美味しんぼは続きます。
ただ、同族嫌悪のいがみあいは次第になりをひそめてしまい、父の背を子が乗り越えようとする物語でなくなってくると、すっかり面白味もなくなってしまいました。息子よりも自分に忠実な嫁と、なんだかんだ言って可愛い孫に恵まれた効果は、雄山にとって絶大だったのでしょう。山岡にしても、齢とともにカドがとれて好々爺化してきた雄山が乗り越えの射程にはいってきて、突き放される部分が少なくなってくると、こちらも次第に丸くなってきます。
まぁ、なんといっても老成したというか、あり得ないくらい大物化したのは栗田ゆう子で、義父と夫を手玉にとっているさまは、あらためて読み返しても感心します。