松村かえるの「かえるのねどこ」

旧「美風庵だより」です。

「残像に口紅を」

数日かけて久しぶりに読み返してみました。66の文字がひとつずつ消えていき、さいごは「ん」で終わります。
「ん」をひけば、世界にはなにも残らない」という文章で終わるこの小説、iPhoneで読んでいたのですが、だいたい世界から6〜7割の言葉が消えるまで、違和感なく読めるのにびっくりしてしまいます。作家は必死になって言い換えの言葉を探し、読み手も、ほんとうはこの言葉を使いたかったのだろう、と考えながら読みすすむ。ところどころで婉曲すぎて意味がつかめなくなり、それを手繰り戻すのも楽しい。
この小説の前に発表された「虚人たち」や「虚航船団」も、どうにかして電子版化してほしいものです。こういうアタマを使う小説は、紙で毎日持ち歩いて少しずつ読むより、iPhoneでちょこちょこ読み進めるほうが、適しています。