美風庵だより

幻の花 散りぬ一輪 冬日の中

硯を買う。


 赤貧の数少ない趣味のひとつにお習字があります。
きっかけは、親戚(当時高校生)に小遣いを渡して御霊前の封筒書きをしてもらっていたことにあります。封筒が10枚入った新品を持参し、それに御霊前と姓を書いてもらっていました。裏面は、住所印と氏名印はもっていましたから、それをスタンプで押していました。
 あるとき「自分で書いてみろ」と筆ペンを渡されました。試しに書いたところ、これがまあ、自分で想像つかなかったくらい、へたくそ。
 そこで目覚めたというか、さすがにこれではまずいだろう、と思い直し、筆文字のけいこをしはじめました。やがて、実家にあった硯をもらいうけ、墨をすってけいこをするようになります。
 5年前、我が家に当時人気だった硯が来ました。ダイヤ入り硯というもので、人工ダイヤモンドを樹脂に練りこんでつくった人造硯でした。早い話、ダイヤモンド砥石を硯にしたもので、これで墨が磨れないわけがありません。ちょっと油断すると、墨がねとねとになるまで磨れてしまう、ちょっとありえない商品でした。
 そのダイヤ入り硯が生産中止となったことを先月知りました。いちおう83まで生きる予定ですので、まだ人生半分は残っています。将来、もしかするともっとすごいものが登場するかもしれませんが、とりあえずもう1面、確保することにしました。
 ただ、墨汁(墨液)に世間の需要が完全にうつっていることを考えると、もう、こういう硯は登場しないかもしれません。そもそも、その前に墨を製造する会社と職人がさらに激減しそうですが。