- 作者: 松下幸之助
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2010/06/04
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
「商売冥利」
商売を始めて間もないころ、ある先輩の方から、こんな話を聞きました。
ある町に立派なお菓子屋さんがありました。
そこに、ある日一人の乞食が、饅頭を一個買いにきたのです。
しかし、そういったいわばご大家ともいわれるそのお菓子屋さんに、
たとえ一個にしろ乞食が饅頭を買いにくるというのは、これは珍しいことだったのです。
それで、そのお店の小僧さんは、饅頭を一個包んだのですが、なにぶん相手が相手なだけに、ちょっと渡すのを躊躇しました。
すると、そこのお店のご主人が声をかけたのです。
「ちょいとお待ち、それは私がお渡ししよう」
そういって、その饅頭の包みを自分で乞食に渡し、代金を受け取ると「まことにありがとうございます」といって深ぶかと頭をさげたのです。
乞食が出ていったあとで、その小僧さんは不思議そうにたずねました。
「これまでどんなお客様が見えても、ご主人がご自分でわざわざお渡しになったことはなかったように思います。いつも私どもか番頭さんがお渡ししておりました。今日はどうしてご主人ご自身があんな乞食にお渡しになったのですか」
そうすると、ご主人はこう答えたのです。
「お前が不思議に思うのももっともだが、よう覚えておきや。
これが商売冥利というものなのだ。
なるほど、いつもうちの店をごひいきにしてくださるお客様はたしかにありがたい、大切にせねばならん。しかし、今日の人の場合はまたちがう」
「どうちがうのですか」
「いつものお客様はみなお金のある立派な人や。
だからうちのこの店にこられても不思議はない。
だが、あの人は、いっぺんこのうちの饅頭を食べてみたいということで、自分が持っている一銭か二銭のいわばなけなしの全財産をはたいて買うてくださった。こんなありがたいことはないではないか。そのお客様に対しては、主人の私みずからがこれをさしあげるのが当然だ。
それが商売人の道というものだ」
これだけの話ですが、何十年かたった今でもハッキリ頭の中に残っています。
そして、このようなところに商売人としての感激を味わうのが、本当の姿ではないかという気がしているのです。
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-