松村かえるの「かえるのねどこ」

旧「美風庵だより」です。

「血族の王」

血族の王: 松下幸之助とナショナルの世紀 (新潮文庫)

血族の王: 松下幸之助とナショナルの世紀 (新潮文庫)

血族の王―松下幸之助とナショナルの世紀―

血族の王―松下幸之助とナショナルの世紀―

http://d.hatena.ne.jp/bifum/20170208/1486483944
8日に感想を書いた「パナソニック人事抗争史」と同じ著者による、「〜抗争史」より先に書かれた、松下幸之助さんの評伝です。
松下幸之助さんが創設したPHP研究所の出版物が「表の顔」なら、彼の「裏の顔」を書いた評伝、という評価を知り、読んでみました。

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本書には(袂を分かって三洋電機を創業した義弟)井植歳男との骨肉の争い、自分を凌ごうとする部下への残酷な仕打ちなど、幸之助の負の面が克明に描かれている。そのどれもが類書では書かれていなかったものばかりだ。しかし、こうした負の面を隠すことなく描き切ったからこそ本書は類まれな幸之助の評伝になった。そして本書を読んだ人は誰もが、ますます幸之助を尊敬し、愛するようになるだろう。

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巻末の江上剛さんの解説にあるとおり「山高ければ谷深し」のひとだったわけです。
考えてみれば、背中だけの人間も、腹だけの人間もいません。理想を訴える姿も、義弟との骨肉の争いも、同じ人間の両面。
松下幸之助さん自身が「富士山に登っている人には、あの秀麗な富士山の全体像は見えず、穴ぼこや石ころばかりが目につきます。やはりいったん山から離れて、遠くから眺めてみるときに、全体の姿がはっきりと目に映るわけです」と、著作にのこしているくらいですから。
この評伝を読んで、腑に落ちるものがありました。
どっかの新宗教の教祖じゃないか、というくらい、理念にこだわる、上澄みを取り出して理論化しようする執念だけで、人間が生きていかれるわけがないとは思っていたけれど、ああ、この生臭さがあって、あの世界だったんだな、と。
 
「そして本書を読んだ人は誰もが、ますます幸之助を尊敬し、愛するようになるだろう」
解説にあるとおりです。不思議なことに、幻滅どころか、もっと読んでみよう、という気にさせる一冊。
なんでだろう?と、しばらく考えてみて、けっきょく、惚れるってこういうことなんだろうな、と思い至りました。